Nov 12, 2008

さいきん読んだ本12

日本に一時帰国したとき、決めていたことがひとつあった。それは、持っていく日本語の本を最小限にして、英語の本をどっさり持っていこうということ。日本語の本は結局5冊、スーツケースにしまっただけだった。

しかし、それらを読み終えてしまうと、すぐに日本の本が恋しくなる。英語を頑張って読んでいても、読む速さは(たぶん)5分の1くらい。ある日、日本で前々から気になっていた本をインターネットでチェックしていたとき、ついに「これ読みてえ」という衝動を抑えきれず、とうとうAmazonで買うことにした。

Amazon.co.jpには海外宅配サービスがある。自分の場合は注文してから6日で届いた。すごいスピードだと思う。サービス料金や税金をトータルすると、日本で買うより一冊あたり3割増しといったところだった。

ちなみにEU圏に荷物を送る場合、内容如何にかかわらず消費税を取られる。自分の場合は2,000円ほど。これはあとになって知ったので、ありもしない関税を勝手にかけたのだと思い込み、かなりしつこく内訳を確認し、DHLのお兄さんを困らせてしまった。

秋の夜長に読書と言うが、ハンガリーの秋はほんとうに夜が長い。サマータイムが終わると16時には日が暮れ始める。届いた本は1ヶ月ほどで読んでしまったが、期待もあわさって格別楽しかった。



キャロル・オフ著、北村陽子訳『チョコレートの真実』

「カカオ畑ではたらく子どもたちは、チョコレートの味を知らない」

本書の見出しはこの一文ではじまる。キャロル・オフはフランスの女性ジャーナリスト。どこでも、だれでも大好きな「チョコレート」の陰の部分に、スポットライトを当てている。アンデス文明から『チャーリーとチョコレート工場』まで。チョコレートの歴史をじっくり振り返っていく過程で、チョコレートの持つ暴力的な歴史、そして創造することも放棄したくなるような、南北問題の現実が炙り出される。

本書からほんの一例を紹介。2000年アメリカ国務省の公式報告によると「15,000人のマリ人の子供たちが、コートジボワールのカカオ、コーヒープランテーションで働いている。多くは12歳以下で、140ドルで奴隷として売られ、1日12時間働く」という。

虐待を受けた傷跡を見せながら、餓死寸前だったところを生き延び、インタビューに答えた少年のつぎの言葉を、チョコレートに対しては消費者でしかない自分は、どのように受け止めればよいのだろうか。

「チョコレートを食べている人たちは、僕の肉を食べていることになるんだ」

消費者と生産者は決して切り離された関係にはない。世界中どこにいたって、需要と供給の関係でつながっている。だとすれば、消費者である自分にしかできないことがある。これからも公正な貿易について勉強せねばならないと感じたし、自分が消費者として保持する権利にもっと敏感になろうと強く感じた。

単刀直入に言って、本書はものすごく読みにくかった。翻訳本にはよくあることなのかもしれないが、文章の脈絡がばらばらで、肝心なポイントが取りにくく、読んでいてものすごくイライラした。400ページちかくある本書を、何度放棄しようと思ったかしれない。それでも読み続けたのは、しかし、驚愕するような内容ばかりだったからだ。対象がチョコレートという、自分に身近なものであったのも影響したのだろう。作者が命がけで書いたこの本を読み終えたとき、ぐっと胸にこみあげるものがあった。




宮崎里司『外国人力士はなぜ日本語がうまいのか』

9月、ブダペストの国際交流基金という文化センターのようなところで、日本語教育にまつわるシンポジウムがあった。

あつまったのは、ハンガリーで日本語を教えている日本人・ハンガリー人の先生たちが50名弱。少しでもアカデミックなものにすがりたいと思っていた自分は、場違いを承知で、日本人の友達とそのシンポジウムに参加することにした。そのときメインの講演をされたのが、早稲田から来られた本書の著者、宮崎先生だった。

「日本語教育の中心はどこですか?」
「ハンガリーが世界に誇れる日本語教育メソッドは何ですか?」

シンポジウムでは、日常考えたこともないようなトピックが次々と出される。久々にワークショップや討論などもやったりして、「アカデミックなものを…」という欲求はなんとなく満たされたように感じていた。無論、内容も大変面白かったので本書を買いつけた。

そういえばなぜ外国人力士は日本語がうまいのか。メジャーリーガーはヘタクソなのに。外国人でカタコトの力士はついに思い当たらない。なぜだろう。内容すべてはいえないが、彼らが使わないものが3つある。それが、

(1)教科書
(2)辞書
(3)先生

なのだそうだ(使うものではなくて、使わないもの)。

相撲部屋では、24時間日本語漬けの毎日。下手をすると兄弟子からしばかれる。日本の礼儀がないとしばかれる。日本語ができないといくら強くても馬鹿にされる。そんなストイックな状況が危機感を生み、語学の向上につながるということだった。

そう言われて思い当たることがある。2ヶ月暮らしたバングラデシュの言葉、バングラ語だ。いま住んでいる家から10分ほどのところに「バングラ・ビュッフェ」という珍しいバングラデシュ料理屋があって、平均して週に1回は行くようなところなのだが、そこに行ってマスターと話していると、今でも結構バングラ語が出てくる。もうハンガリーには半年くらい住んでいるのに、ハンガリー語と変わらないか、バングラ語のほうが上手いんじゃないかという実感がある。なぜだろう。

バングラにいたときは朝から晩まで、文字どおり24時間バングラ人と一緒。週末も平日も、オフィスも自宅もない。相撲部屋みたいな生活。みんな英語できなかったから、バングラ語を覚えるしかないという危機感。「なるほどな」と合点がいった。オフィスでも自宅でも英語で、プライベートの時間もしっかりある今の生活では、自分のハンガリー語にあまり希望は持てない。残念ながら…。

相撲部屋の裏話や、若かりし朝昇龍への密着インタビューなどもあり、読み物としてもおもしろい一冊だった。




大森みゆき『私は障害者向けのデリヘル嬢』

元デリヘル嬢が、さまざまな障害者との出会いを書いたノンフィクションのエッセイ。

本が届いたとき、「あれ。なんでおれこんな本、わざわざ日本から買ったんだろう」と思った。動機は、もっと知らない世界を知りたいという好奇心だけだった。興味本位で読むにはかなり衝撃の内容だったけれども、やはり知ってよかったことなのだと思う。筆者がいうように、障害者の性についての議論は、ものすごく置き去りにされやすい。それだけに、少しでも多くのラブホテル、デリヘル、風俗において、バリアフリーがすすめばと願う。

公共福祉という点から言えば、ハンガリーがEU国であることは、まったく信じられない。ギャグか何かだと思うことがある。ゴミ袋は1種類。車椅子の人はすべてのメトロ、そしてほとんどのバス・路面電車が使えない。教会や歴史的建造物にもあふれる落書き。点字や点字ブロックなんて見たことない。英語の案内も少ない。公衆電話の半分は壊れている。2004年のEU加入前に主要鉄道駅にエレベーターを作り(加入基準を満たすため)、EU加盟後はすぐに閉めてしまうような国なのだ。

ハンガリーに比べれば、日本はすごくバリアフリーが進んでいると常々感じていたが、この本のように性的なバリアフリーをテーマにした本が出版されること自体、2国間の差は比較にならないほど大きい。福祉という分野においても、日本は世界をリードする存在であるべきだと感じた。




沢木耕太郎『敗れざる者たち』

野球、ボクシング、マラソン、競馬などをテーマにした、スポーツ・ノンフィクション短編6集。『クレイになれなかった男』『三人の三塁手』『長距離ランナーの遺書』『イシノヒカル、おまえは走った!』『さらば、宝石』『ドランカー〈酔いどれ〉』。円谷幸吉、輪島巧一などが登場する。

同著者の『凍』を読んだとき、心底身震いした。『凍』はクライマー山野井夫妻のギャチュンカン登頂を追ったものだが、こんな生き方をする人間がこの世にいていいのかと思った。山野井夫妻の生き方に、ただただ圧倒されたのが『凍』という作品だった。

『敗れざる者たち』で対象になる人物は、栄光を手にした天才ではない。ついに日の目を見なかった者たちばかりだ。作者は本書で、彼らアスリートの物語を丁寧に集めていく。表立って出てこない話ばかりを。

希望、絶望、歓喜、涙…。アスリートと、そして周囲の人間の心理が、巧みに描写されていく。そして、思う。必死に何かを追い求める人は、人を引き付ける。たくさんの人の関心はなくても、たとえ負けたとしても、周りの人間に感動を与える。本書を読んだ自分も、そのうちの一人なのだと。

「自分はどうだろう」と思わざるを得ない一冊だった。




斉藤孝/梅田望夫『私塾のすすめ-ここから創造が生まれる』

帯文句は「一生学び続ける戦略」というもの。こちらのほうが、タイトルよりも内容を的確に表しているように思う。斉藤孝(明大教授)と梅田望夫(ウェブ進化論著者)という、中年の有識者ふたりの対談集になっている。

「大学を出たあと、どれだけ勉強し続けられるか」。これは個人的につねに考えているテーマで、本書の趣旨と合致する。休学という形で大学を出たけれど、正直、仕事の時間を勉強の時間に当てられればどれだけいいだろうと、考えることが多い。

著者のふたりは「これからは、好きなことを仕事にしなければ生き残れない」と言っていた。インターン先を決めるにあたって、自分は違う考え方をした。仕事はお金をもらうことなのだから、好きとか嫌いとかいうことでなくて、しなくてはいけないことなのだと。勉強はプライベートの時間にすればいいのだと。ただ、異国で急に門外漢になることを、少し甘く見ていたなという認識はある。

無論、これからもなんとかインターンから学ぼうとしなくてはならない。ただ、インターンを終えて就職を考える際には、もう少し慎重に検討を、つまり、本気で自分が続けられる仕事を探すということと、そのための準備を今からしていかないととマズイと感じた。

その準備として、けっこう面白いアイデアがあるのだけれど、実行して書く価値があれば、ブログにも書こうと思う。




岩附由香/白木朋子/水寄僚子『わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて』

タイトルから、ある少女を取材した記録なのかと感じたが、実際は児童労働の問題を知る入門書だった。

『チョコレートの真実』にもあったが、奴隷制は過去のことではない。現実に、日本の子供が小学生にあがるような年齢から、毎日きつい仕事を命じられる子供達がいる。15歳以下の子供が労働することを児童労働と定義するが、その人数は世界中で2億1800万人にのぼると言われている。そのなかには過酷で危険な仕事もつきまとう。本書では、児童労働が取り締まられるべき理由を4つ挙げている。

(1)子供が心と体に受けるダメージが大きい
(2)教育を受けられない
(3)人としての自由を奪う
(4)社会を支える人材が育たない

今朝飲んだコーヒーは、いつも食べるチョコレートは、だれがつくったものなのか。
こうした本を読んだ以上、消費者としてできる限りの行動をしていきたいと思う。




吉越浩一郎『「残業ゼロ」の人生力』

毎日授業ではなくて、仕事があるとなると、自己管理が全ての基本になるわけだけども、たまに生活のリズムを崩してしまうときがあった。そのため、どんなふうに日々をすごしていけばいいのかなあという思いで購入。薄い本だったが、けっこう丁寧に読んだ。

筆者は言わずと知れたトリンプの元社長。ヨーロッパと日本両方で働いた著者の話は説得力があり、筆者の経験を紹介している章は参考になった。

早寝早起きと、平日酒を控えること、そして家でインターネットをしないことで、かなり(少なくとも10月の1ヶ月は)ハリのある生活ができたかなと思う。特にインターネット。ノートパソコンの修理を友達に依頼していたので1ヶ月強PC無しの生活だったのだけれど、インターネットを控えることでかなり時間を節約できるというのは発見だった。

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